輪島は海がとても近い
子どもの頃からの遊びも、食も、海の傍らにあった
共に育ってきた
磯に遊ぶ生き物らを描くこだわりは多い
カニの甲羅は毛細管現象というものを使っている
漆が厚塗りの場所に金を指でつまみ落として
その均等になっていない金の部分に漆が吸い込まれる
その滲み出しによってカニらしさを出している
エビのひげは特殊な蒔絵筆を使い、線を引く
加えて非常に粘り気のある漆を使用する
線を引く漆を使うのは技術があっても難しく
生きている線を描くのは至難の業だ
ハゼの群れは彼らの目に気を留めてほしい
前の魚が後ろの魚がちゃんとついてきているか心配している
そんな気持ちで目を描いている
イカやフグはデフォルメしなければなかなか厄介なものである
かといって、特徴は残したい
全て、自分が目にしてきた景色だ
岩場の隙間に身をひそめるカニ
覗き込む海の中を泳ぐ魚
潮だまりの小さなエビ
釣りをしてはフグに餌を食われる
磯蒔絵はこの輪島で過ごす自分の日常であり、原点だ
ここが出発点だった
想像をこねくり回すのではなく、一番身近なものを描く
だからこそ出来たデザインがある
30歳の頃に考えたこの磯蒔絵
そこに手を加えることはほとんどない
何を足しても引いても成立しない仕事と構図があるからだ